薄毛(ハゲ)の原因は飲酒?アルコールが頭皮や抜け毛に与える影響

飲酒によって生じる栄養素の消耗や血行不良、睡眠の質の低下は薄毛(ハゲ)の要因となります。ただし、極端な禁酒によるストレスもまた薄毛の要因。健康的な髪のためには適切な飲酒が大切です。

目次

「お酒を飲むと薄毛(ハゲ)になるの?」
「禁酒すれば抜け毛が減るの?」

このようなお酒と薄毛の関係について、疑問を持っている方も多くいるはずです。では実際に、アルコールは髪や頭皮にどのような影響を与えるのでしょうか。

今回は、お酒が薄毛の原因となる理由やメカニズム、そしてAGAとの関係性などについて詳しく解説していきます。

■ 本記事のサマリ

  • 過剰な飲酒は、髪の発毛に悪影響を及ぼす可能性がある
  • しかし、飲酒はAGA発症とは直接的には関係がない
  • AGA治療には禁酒だけでは不十分で、AGA治療薬等での直接的な治療が必要
  • AGA治療中の過度な飲酒は治療効果の低下や、肝機能障害等に繋がる可能性があるため注意
  • 特にミノキシジルとお酒の同時摂取は血圧低下に繋がる危険があるため避けることを推奨

お酒が薄毛(ハゲ)の原因になる?髪への悪影響6つ

過度な飲酒が薄毛(ハゲ)の原因になってしまうことがあります。では、どうしてアルコールが髪に悪影響を与えるのでしょうか。ここでは、お酒が髪に悪影響を与える6つの原因についてお伝えしていきます。

悪影響①重要な栄養素がアルコールの分解に使用される

飲酒が薄毛を引き起こす要因としてまず考えられるのが、アルコール代謝の過程で髪に必要な栄養素が消耗されることです。自らが消化できる域を超えた飲酒をした場合、アルコールを分解するために体内の多くの栄養素が消費されてしまうのです。

通常は「脱水素酵素」がアルコールを分解

そもそも、体に取り込まれたアルコールは肝臓で脱水素酵素の働きによってアセトアルデヒドという物質となります。
このアセトアルデヒドは、体に有害な活性酸素を生成し、頭痛や吐き気、めまいなどを引き起こす作用がある成分です。

アセトアルデヒドは脱水素酵素の働きにより、無害な酢酸という物質に分解され、最終的にはエネルギーに変換されたり水と二酸化炭素に分解されたりします。

この一連のアルコール代謝がスムーズに進むと、宿酔・悪酔いといったアセトアルデヒドによる症状は起きません。

飲みすぎた時に補助的に働く酵素は髪に必要な栄養素を消耗する

アセトアルデヒドを分解するための脱水素酵素が体質的に不足していたり、分解が追いつかないほど過剰な飲酒があったりすると、前述のアルコール代謝が回らなくなってしまいます。
ここで代役として登場するのが、本来は体内の解毒のために存在する薬物代謝酵素です。

薬物代謝酵素は、脱水素酵素と同様にアルコールを代謝してくれる反面、代謝の過程で多くのアミノ酸やビタミン、ミネラルなどを消費します。
これらの栄養素には、髪の形成に必要とされるシステインやメチオニンなどのアミノ酸、亜鉛なども含まれています。

つまり、お酒の飲み過ぎが、知らず知らずのうちに髪の材料となる栄養素を枯渇させ、薄毛を引き起こす原因になっているのです。

悪影響②薄毛を引き起こすジヒドロテストロンの増加

お酒の飲み過ぎは、AGA(男性型脱毛症)を引き起こす男性ホルモン、DHT(ジヒドロテストロン)の増加につながることがあります。

DHTは、体内に存在する男性ホルモン「テストステロン」が酸化酵素である5aリダクターゼと結合することによって生成されるものです。この5aリダクターゼには2種類あり、主に皮脂腺に存在するものと毛乳頭細胞に存在するものとがあります。

飲酒による毛細血管の拡張によって皮脂腺が刺激されると、5aリダクターゼが分泌されやすくなり、DHTの生成が進行します。そのため、日常的な飲酒が薄毛になりやすい頭皮環境を作ってしまう可能性があるのです。

悪影響③糖質の過剰摂取による血行不良

お酒の中には、糖質が高い種類もあります。そのため、飲酒が過剰な糖質の摂取につながることがあります。そして、血流の状態を悪化させ、薄毛を引き起こしてしまう恐れがあるのです。

血糖値が上がると分泌されるホルモン「インスリン」には、血液中の糖を脂肪に変える働きがあります。血中の脂肪が増えることで血液の粘り気が増し、血流が悪くなります。

血流の状態が悪くなると、髪の毛に必要な栄養素・酸素が毛乳頭まで運ばれにくくなってしまうのです。お酒の中でも、梅酒やスイートワイン、缶チューハイや日本酒などは比較的糖度が高いので注意しましょう。

悪影響④胃腸の機能が弱り栄養の吸収率の低下する

過剰なアルコールを摂ると、胃の粘膜が刺激され傷ついてしまい、胃の機能が低下してしまうことがあります。アルコールの分子は非常に細かく、胃の粘液を通過して粘膜まで到達してしまうためです。

また、大量のアルコールによって胃酸が分泌されすぎてしまうことも胃の粘膜を痛める要因です。実際、国立病院機構久里浜医療センターの調べによると、多量飲酒者では肝障害に伴う門脈圧亢進でうっ血性胃炎があり細菌感染がなくても胃のびらんや出血を起こすことが多い*とされています。
*横山 顕「アルコールと消化管疾患―消化管がんを中心に―」日本消化器病学会雑誌第109巻第9号

胃の消化機能が低下することで恐ろしいのが、せっかくとった栄養素が体内に吸収されづらくなってしまうことです。髪に必要な栄養素が体内に取り込まれなくなってしまうと、正常な髪の毛の形成がされず、毛痩せや抜け毛、切れ毛などの原因になります。

また、頭皮の新陳代謝が正常に行われなくなるため、フケや痒み、過剰な皮脂なども生じやすくなるのです。

悪影響⑤睡眠の質が低下する

お酒を飲むと睡眠の質が低下します。そして、睡眠の質が低下することで、薄毛の要因となる血行不良を引き起こすのです。

飲酒で睡眠の質が低下するのは、アルコールの代謝過程で生じるアセトアルデヒドが血によって脳に運ばれると交感神経を優位にし、中途覚醒を引き起こすためです。

イギリスのロンドン睡眠センターの調べでも、アルコールが寝入りを良くしても、その後深い眠りのレム睡眠を阻害する*ことがわかっています。
*Irshaad O, et al. Alcohol and sleep I: effects on normal sleep. Alcohol Clin Exp Res. 2013 Apr;37(4):539-49.

また、アルコールには利尿作用や筋肉を弛緩させる働きがあるため、トイレが近くなったり、いびきをかきやすくなったりすることがあります。アルコールは眠りをサポートするように捉えられがちですが、良質な睡眠を妨げ薄毛の要因となってしまうのです。

悪影響⑥脱水症状による頭皮環境の悪化

飲酒は脱水症状を引き起こし、頭皮の環境を悪化させる可能性があります。アルコールには、必要以上に利尿を促す作用があるためです。

そもそも、人の体には尿量の調整を行う「抗利尿ホルモン」が存在し、体内の適切な水分量が維持されています。しかし、アルコールは抗利尿ホルモンの働きを抑制することで、体内から必要以上の水分を排出させてしまうのです。

日常的な飲酒から血液・体液の水分量が慢性的に不足した状態だと、髪や頭皮に必要な栄養素・酸素が頭部まで行き届きにくくなってしまいます。また、頭皮の角層の水分量が低下することでバリア機能が弱まり、フケや痒み、赤みなどの頭皮トラブルが生じやすくなるのです。

禁酒によるストレスで薄毛が進むパターンも

飲酒には薄毛を引き起こす可能性があるため、禁酒すれば薄毛の原因を減らすことはできるでしょう。ただし、無理にお酒をやめてストレスを溜め込んでしまうことも良くありません。

ストレスによって交感神経が優位となり血管が収縮すると、血行不良が生じます。また、ストレスを感じると分泌される抗ストレスホルモン「コルチゾール」には、生成の過程で多くのビタミンを消費したり、タンパク質をブドウ糖に分解してしまったりする働きがあります。

つまり、禁酒によるストレスが、かえって髪に対して悪影響を与えてしまう可能性があるのです。

飲酒が必ずしも薄毛(ハゲ)の原因になるわけではない

過度の飲酒は髪・頭皮に対して害となりますが、必ずしもアルコールが薄毛の直接的な原因となっているわけではありません。実際、薄毛の要因となり得る血流の悪化や栄養の不足などは飲酒以外にも起こることです。

例えば、過度なストレスや糖質に偏った食生活、運動不足なども薄毛を引き起こす可能性がある生活習慣です。また、紫外線の照射や肌質に合わないヘアケア、ドライヤーの当てすぎなども頭皮に負担を与える要因といえます。

飲酒は適度な量であれば肝臓に負担をかけることがありません。むしろ、息抜きやコミュニケーションの場に欠かせないツールとなることもあります。

飲酒は適量を心がける

肝臓に備わる脱水素酵素で分解できる量のアルコールであれば、体に大きな負担がかかることはありません。しかし、アルコールの許容量は体質によって異なるため、自分の適量は判断しづらいものです。

そこで目安となるのが、厚生労働省が示している「飲酒のガイドライン」です。このガイドラインによると、1日の平均的な純アルコールの摂取量を20g程度とするように推奨しています。

お酒の種類別の容量は以下のとおりです。

お酒の種類とアルコール量

*参考:厚生労働省「健康日本21(アルコール)

また、お酒を飲むときは、アルコール代謝を助けてくれる栄養素を含むおつまみを一緒に摂ることがおすすめです。例えば、アルコールをアセトアルデヒドや酢酸に分解する脱水素酵素は、代謝の過程でビタミンB群のひとつであるナイアシンを消費します。

また、ナイアシンはアミノ酸をもとに合成されることを考慮すると、良質なタンパク質の摂取も重要です。ナイアシンやタンパク質を豊富に含む豚レバーやマグロ、鶏胸肉などはおつまみに適しています。

適度な飲酒は髪に良い影響も

「酒は百薬の長」ということわざが示すように、アルコールには食欲の増進や血流の改善、リラックス効果などをサポートしてくれるメリットがあります。そのため、節度をわきまえた飲酒は髪にとっても良い影響をもたらしてくれるでしょう。

お酒の場は普段話せない人ともコミュニケーションが取れる機会となり、日常生活が充実するきっかけとなります。また、少量のアルコールは、胃液の分泌・消化を促す作用があるため、食欲がないときの栄養補給をサポートします。

適度な飲酒による生活の質の向上は、健全な頭皮・髪の毛の維持を手助けしてくれるものなのです。

飲酒とAGA(男性型脱毛症)には直接的な影響はない

髪は一定の周期で寿命を迎える性質があり、毛根にできてから自然に抜けて落ちるまでを成長期・退行期・休止期のヘアサイクルを経て繰り返しています。このヘアサイクルの成長期が男性ホルモンの影響で極端に短くなるのがAGAです。

脱毛の原因がAGAである場合、禁酒をしても症状が改善することはありません。なぜなら、AGAの要因は生活習慣によるものではなく、遺伝的な要素が強いためです。

もちろん、過度な飲酒はAGAの症状をより進行させてしまう恐れがありますが、飲酒による直接的な脱毛への影響はないことを理解しておきましょう。

AGAの発症は男性ホルモンや遺伝が関係している

AGAは男性ホルモン、テストステロンと酸化酵素の5aリダクターゼが結合することによって生じるDHTの作用によって発症します。DHTは毛乳頭細胞にあるアンドロゲンレセプター(男性ホルモンの受容体)と結合することで脱毛因子を生成。この脱毛因子が毛乳頭細胞や毛母細胞の活性を抑制し、髪の成長期を大幅に短くしてしまうのです。

AGAの最終的な引き金となるアンドロゲンレセプターの感受性は遺伝的な要素が強く、特に母方の家系から引き継ぐ傾向にあります。アンドロゲンレセプターの感度に関する情報は母親から受け継ぐ染色体が持っているためです。

また5aリダクターゼの総数も親から引き継がれることがありますが、アンドロゲンレセプターとは異なり優性遺伝となります。このため、両親のうちどちらかに強い脱毛症状がある場合、自身も同様の症状を発症しやすくなるのです。

薄毛の原因はAGA?と不安になったら医師へ相談

AGAを改善するにはクリニックで適切な治療を受けることが必要です。先に述べたように生活習慣の改善だけではAGAの進行を抑えることが困難だからです。

クリニックでは内服薬や外用薬などを活用することで、5aリダクターゼの抑制や血流の改善、髪に必要な栄養の補給などを行い、AGAの改善を目指せます。「自分はAGAかも?」と不安を抱えている方は、AGAクリニックで医師に相談することをお勧めします。

飲酒とAGA治療について

AGA治療をすでに受けている、または検討しているという方の中には、治療中の飲酒について疑問を持たれている方もいるはずです。ここでは、AGA治療と飲酒に関する疑問について解説していきます。

過度な飲酒はAGAの進行を促進する危険が

お酒がAGAの治療薬の効果に直接的な影響を与えることはありません。ただし、過剰なアルコールはAGAの進行を促してしまう恐れがあるため注意が必要です。

先に述べたように、過剰なアルコールは体内で分解される際に髪に必要な多くの栄養素を消耗します。また、AGA治療の中心的な存在である内服薬も肝臓で代謝されますが、過度な飲酒による肝臓への負担によって肝機能障害等が起こりやすくなったり、髪の発育にも悪影響を及ぼす恐れがあるのです。

AGA治療薬の効果をしっかりと実感するためにも、飲み過ぎには注意しましょう。

AGA治療薬とアルコールの同時摂取は控える

AGA治療薬として活用される内服薬、ミノキシジルタブレットとお酒を同時に飲むことは控えましょう。どちらにも血管を拡張させる作用があり、同時摂取による相乗的な効果によって極端な血圧の低下を招く恐れがあるからです。

またどちらも肝臓で代謝が行われるため、多大な負担をかけてしまいます。AGA治療中に飲酒をする場合は、ミノキシジルとの間隔を空けて摂取するよう気をつけてください。

薄毛(ハゲ)が気になる方は適切な飲酒を心がけよう

ここまで、過度な飲酒が薄毛の原因になる理由、お酒とAGAの関係性などについてお伝えしてきました。

お酒は適度に嗜むのであれば生活に潤いを与えてくれたり健康をサポートしてくれたりするものです。しかし、過度な飲酒は薄毛(ハゲ)や健康を害する要因にもなります。

健康的な髪の毛や頭皮のためにも、適度な飲酒量を心掛けましょう。

天野 方一 先生

ヘアテクト 顧問医師

日本抗加齢医学会専門医

埼玉医科大学卒業後、都内の大学附属病院で研修を修了。東京慈恵会医科大学附属病院、足利赤十字病院、神奈川県立汐見台病院などに勤務、研鑽を積む。2018年9月よりハーバード大学公衆衛生大学院(Harvard T.H. Chan School of Public Health)に留学。予防医療に特化したメディカルクリニックで勤務後、2021年よりへアテクト顧問、2022年より理事長に就任。日本腎臓学会専門医・指導医、抗加齢医学会専門医、日本医師会認定産業医、公衆衛生学修士、博士(公衆衛生学)の資格を有する。

※本記事はHAIRTECTスタッフが天野医師にインタビューを実施し、スタッフが内容をまとめたものとなります。

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