睡眠不足が薄毛(ハゲ)の原因になる?AGAや抜け毛との関係
睡眠不足は成長ホルモンの分泌を抑制し頭皮の血行不良をもたらす点で、薄毛の要因となります。薄毛対策には睡眠の質を高めることが重要。ただしAGAの場合は遺伝的要因があるため、クリニック受診をおすすめします。
「睡眠不足が続くとハゲるって本当?」
「たくさん寝たら抜け毛を防げるの?」
これらの疑問を薄毛の気になる方は持ったことがあるはずです。忙しさに追われる人にとって、睡眠時間が思うように確保できないことはありがちなこと。しかし、睡眠不足とハゲの関連性について明確に分かれば、育毛を目指しやすくなります。
今回は睡眠不足でハゲる理由や睡眠のメカニズム、睡眠の質を上げるポイントなどを解説します。
■ 本記事のサマリ
- 睡眠不足は薄毛の要因になることがある
- 成長ホルモンの分泌不足や自律神経の乱れによる血行不良が原因
- 入眠後3時間の良質な睡眠が薄毛対策には重要
- ただし、睡眠改善だけで薄毛が改善されない場合もある
- 薄毛が気になる方は、AGA(男性型脱毛症)の可能性も加味して、まずは無料相談等で薄毛の原因を特定することを推奨
睡眠と薄毛の関係|睡眠不足がハゲる原因になる理由
睡眠不足は慢性化すると頭皮環境を悪化させ薄毛につながる恐れがあります。薄毛の改善を目指すには、まずは睡眠不足が薄毛にどう関係しているかについて知っておくと良いでしょう。ここでは、睡眠不足が薄毛を引き起こす理由を解説します。
成長ホルモンが分泌されない
睡眠不足になるとあらゆる細胞の修復に働く成長ホルモンの分泌が滞り、髪の毛が十分に育たなくなります。
そもそも成長ホルモンとは脳の下垂体から分泌されるタンパク質の一種で、細胞のタンパク質を合成したり糖・脂質の代謝に働いたりします。この成長ホルモンの分泌が行われるのは、後に述べる「ノンレム睡眠」のタイミングです。
睡眠不足によってノンレム睡眠が短くなると成長ホルモンの分泌は減少し、以下に挙げるような薄毛の要因を生み出してしまうのです。
- 頭皮のコラーゲン・エラスチンなどの合成が滞る
- 頭皮の新陳代謝が乱れる
- 髪の毛を作る毛乳頭細胞・毛母細胞の活性が弱まる
また、成長ホルモンの不足は薄毛の他にも体全体を老化させてしまうものなので健康のために睡眠は必須と言えます。
自律神経が乱れる
睡眠不足には自律神経を乱し、薄毛を引き起こす恐れもあります。
自律神経の乱れで体調が悪くなると聞いたことがある人は多いと思いますが、この自律神経の中枢は脳の視床下部という部位に存在します。
視床下部は交感神経と副交感神経のバランス調整を行い、常に体内の恒常性が保たれるように働いています。
しかし、十分に睡眠が取れていないと視床下部の機能が弱まり、自律神経の乱れが発生します。交感神経が優位になりやすい状態となり、ストレスの蓄積による栄養の消耗や更なる不眠、頭皮の血流悪化などにつながってしまうのです。
血行不良になる
先ほどお伝えしたように、睡眠不足は自律神経を乱し交感神経を優位にさせ、血行不良の原因となるものです。
交感神経が働いている状態とは、トラブルに対処するために体全体が攻撃態勢に入っているようなものです。
脳と心臓に血液を集中させるために抹消血管が収縮するので、頭皮の毛細血管に血が行き届かなくなります。
頭皮の血行不良で髪の毛に必要な栄養と酸素が毛根まで運ばれなくなると、髪の毛の成長が阻害されてしまいます。
慢性的な寝不足は常に交感神経を優位にさせるため、薄毛の引き金となるものなのです。
薄毛対策のために睡眠のメカニズムを知ろう
睡眠が健全な毛髪と頭皮を作る上で重要であると分かりました。
しかし、うたた寝や昼寝などの細切れ睡眠を利用して睡眠時間を多く取ればいいというわけではありません。
薄毛対策に有効な睡眠は量よりも質が大切です。
そこで、良質な睡眠を目指すために睡眠のメカニズムを知っておく必要があります。ここからは、睡眠のサイクルや質の良い睡眠のタイミングなどについて解説します。
睡眠は深い眠り(ノンレム睡眠)につくことが重要
睡眠は、レム睡眠とノンレム睡眠の2種類の睡眠を交互に繰り返すことで保たれます。
双方の特徴を下記にまとめます。
ノンレム睡眠とレム睡眠の違い
レム睡眠は「Rapid Eye Movement」、ノンレム睡眠は「Non Rapid Eye Movement」の頭文字を取ったもの。
つまり、眼球が迅速に動いているかそうでないかで名付けられています。
ノンレム睡眠とレム睡眠はセットで90分程度とされ、両者の健全な比率はノンレム睡眠が8割程度、レム睡眠が2割程度。
私たちにとって理想の睡眠は短く浅い眠りではなく、しっかりと深い眠りにつくことなのです。
一般的にレム睡眠は入眠直後に短く目覚めに近づくに連れて長くなる性質を持ち、朝を迎えるまでにノンレム睡眠とレム睡眠はセットで4〜5サイクル繰り返すとされています。
成長ホルモンが最も分泌されるのは入眠後3時間
成長ホルモンが分泌されるノンレム睡眠は入眠直後が最も深く長く、覚醒に近づくにつれて短くなっていきます。
つまり成長ホルモンが最も多く分泌されるのは入眠してから最初に訪れるノンレム睡眠時であり、総じて入眠後の2サイクル(入眠後3時間)が分泌の多い時間帯とされています。
先に述べたように、1サイクルの睡眠は90分程度です。したがって入眠後3時間程度は良質な睡眠を確保しておきたいところです。
「22時までの入眠が重要」説には根拠がなく
入眠後3時間の睡眠の質が重要
「22時から2時までが最も良質な睡眠の取れる時間帯である」という睡眠のゴールデンタイム説を知る人も多いでしょう。しかし、実は睡眠のゴールデンタイムには化学的な根拠がありません。
先に述べたように成長ホルモンはノンレム睡眠時に分泌され、入眠後の3時間が多く分泌されるタイミングです。
例えば、夜中の3時に寝て朝の10時に起床する生活を規則正しく続けていた場合でも、ノンレム睡眠時に成長ホルモンが分泌されるという原理には変わりありません。
22時から2時までの間に深い眠りについていなければならないという誤信は、睡眠の質を上げるどころか、ストレスの原因となりかえって頭皮や髪の毛によくない可能性もあります。
薄毛の原因?睡眠の質を低下させるNG行動
眠りが浅くなると成長ホルモンの分泌が阻害され、薄毛になりやすい頭皮環境を生み出してしまいます。では、どうして眠りが浅くなってしまうのでしょうか。
実は、私たちが普段何気なくしていることが良質な睡眠の妨げになっていることがあるのです。ここでは、睡眠の質を低下させる要因となる行動を解説します。
就寝前3時間以内の食事や飲酒
寝る3時間前の食事や飲酒は睡眠の質を低下させ、薄毛の要因となります。なぜなら、消化活動は胃腸に血液を集中させ脳の血流を悪化させたり、お酒に含まれるアセトアルデヒドがもたらす覚醒作用・利尿作用によって眠りが浅くなったりするからです。
睡眠中の脳は成長ホルモンを分泌する他、ストレスへの耐性を強めるホルモン「プロラクチン」や副交感神経を活発化するアミノ酸「ギャバ」などを生成します。
しかし、脳の血流不足や中途覚醒によってこれらの活動が滞ると、十分に体を休められなくなるのです。
就寝前のスマホやパソコン
スマホやパソコンのディスプレイから出るブルーライトは非常にエネルギーが強く、就寝前に目にすることで交感神経を優位にし、睡眠の質を低下させます。
そもそも、入眠に働く代表的なホルモン「メラトニン」は朝日を浴びてから15時間程度経つと脳にある松果体から分泌され、眠りを誘発する仕組みです。
しかし、ブルーライトによる刺激が視細胞から松果体に伝わることで脳が昼夜を錯覚。メラトニンの分泌は抑制され、夜眠れなくなったり眠りが浅くなったりします。
眠りにつく2時間前までのスマホ・パソコンの使用には注意が必要です。
就寝前のカフェイン
目覚ましにコーヒーを飲むことがありますが、就寝前のカフェイン摂取は神経を興奮させスムーズな入眠の妨げになります。
なぜならカフェインは睡眠物質のひとつである「アデノシン」の活性を抑制するためです。
カフェインの血中濃度は服用後1時間程度でピークを迎え、5時間程度持続します。またカフェインにはお酒と同様に利尿作用もあり、寝る直前に摂ると夜中に尿意や喉の渇きで中途覚醒の要因にもなります。
したがって、夕方以降のカフェイン摂取は睡眠の質を低下させる恐れがあるのです。
長時間の昼寝
先に述べたように睡眠物質であるメラトニンは朝日を浴びてから15時間程度で分泌されます。
しかし長時間の昼寝をすることで体内時計に狂いが生じると、メラトニンの分泌が停滞し、副交感神経が優位になりづらくなります。
交感神経が優位になりノンレム睡眠が短くなると、睡眠時間を長く取ったとしても睡眠中のホルモンの分泌が行われず睡眠の質は低下します。
睡眠の質を向上させる5つの方法
健全な髪の毛を目指す上で良質な睡眠は欠かせないものです。普段の心掛けで睡眠の質を上げることができれば、効率的に薄毛の改善を目指せます。ここからは、睡眠の質を上げる方法を見ていきましょう。
就寝時間と起床時間を一定に保つ
朝起きてエネルギーの強い日光を浴びると体内時計は調整され、15時間程経つとメラトニン分泌によって眠りが誘発されます。
人によって睡眠時間は異なりますが、メラトニンのサイクルを一定に維持することが副交感神経の活性効率を上げることにつながるのは誰にとっても同じです。
自分のライフスタイルに適切な就寝時間と起床時間を保てば、頭皮環境を良くするだけでなく体全体のパフォーマンスを高められるでしょう。
湯船に浸かる
眠れない理由のひとつにストレスがありますが、湯船での入浴はストレスを軽減し、スムーズな入眠をサポートしてくれます。
湯船に安眠効果がある理由は、お湯の浮力によるリラックス効果や全身の体温上昇によって副交感神経が活性化するからです。
また、入浴後は体の深部体温がぐっと下がりますが、このタイミングが入眠には最適。眠りに入る際に、私たちの体は日中活動し続けている脳を休めるために脳の体温を下げようと働きます。
深部体温を下げるために手足など末端から熱を放出していきますが、この作用を入浴後の急速な体温の低下が手助けするのです。寝る1時間から2時間前に湯船での入浴を済ませておくと気持ちよく入眠できるでしょう。
適度な運動・ストレッチ
適度な運動やストレッチは心地の良い睡眠を手助けしてくれるものです。
睡眠を誘うメラトニンの原料となるのは自律神経の調整に働くホルモン「セロトニン」です。このセロトニンはウォーキングやランニング、ダンスなどのリズム運動によって活性します。
良質な睡眠を得るために、程よい運動の習慣を取り入れましょう。ただし、激しい運動はかえって交感神経を優位にさせ眠りを妨げるため注意が必要です。
寝室の照明を調節する
睡眠に欠かせないメラトニンは光の刺激で分泌が調整されますが、おおよそ500ルクス程度の照度で分泌が抑制され、150ルクス程度で活性する作用があります。
したがって、寝室の照明は睡眠を誘う150ルクス程度に留めておく必要があるのです。
150ルクスは街灯と同レベルの照度です。
心地良く入眠するためには、寝室の照明を街灯のような薄明かりにすると良いでしょう。
テーブルライトやフロアライトなどの間接照明アイテムを寝室に置いてみるのもおすすめです。
睡眠時間を90分単位にする
目覚めをスッキリさせるには、90分単位で睡眠をとるのがおすすめです。
先に述べたように、ノンレム睡眠とレム睡眠はセットで90分程度あり、このサイクルは朝を迎えるまでに4〜5回程度繰り返すとされています。
もしも脳が休眠しているノンレム睡眠時に起床時間を迎えると、副交感神経が優位なままなので気だるさを感じやすくなります。
睡眠時間を90分単位にすることで、交感神経が働くレム睡眠時に目覚めることができ、スムーズな起床ができます。
十分に体が休まる理想の睡眠時間は、6時間ないし7時間半でしょう。
AGAの発症と睡眠不足は直接的な関係はない
薄毛の要因を生み出す睡眠不足ではありますが、男性の薄毛の原因の多くを占めると言われているAGA(男性型脱毛症)の直接的な原因ではありません。なぜならAGAはほとんどが遺伝によって引き起こされる疾患であるためです。
AGAは主要な男性ホルモンである「テストステロン」の影響で生じます。
テストステロンが酸化酵素の「5aリダクターゼ」と結合することで、脱毛因子のもととなる男性ホルモン「DHT」を生成します。
このDHTは男性ホルモンレセプターと結合することで脱毛因子を生成し、髪の毛を作り出す毛母細胞の活動を阻害してヘアサイクルを乱してしまうのです。
AGAの起きやすさは、男性ホルモンレセプターの感受性や5aリダクターゼの活性度の高さに左右され、遺伝で引き継がれることが多いもの。
たとえ睡眠不足を改善したとしても、AGAの根本的な解決はできません。
改善にはクリニック等での治療が必要となるため、もしもAGAの可能性がある場合、医師に相談してみることをおすすめします。
髪の生え際がM字に後退してきた、つむじ周りの毛が薄くなってきた、と感じた場合は、AGAの疑いがあるため注意しましょう。
睡眠と薄毛に関するQ&A
薄毛への悩みにはさまざまなものがあります。睡眠不足の他にも薄毛の要因かどうか迷いが生じる習慣はあるものです。ここで睡眠と薄毛の関連性が気になる方に多い疑問を紹介します。
AGA治療薬が睡眠に悪影響を与える可能性はある?
AGA治療薬の睡眠に対する副作用はありません。一般的に副作用として挙げられるのは次のとおりです。
- 肝機能障害
- 不整脈
- めまい
- 性欲の減退
また、治療薬を使用するとヘアサイクルが正常化され、新たな髪が生える前段階として今ある髪の毛が抜け落ちる初期脱毛が起きることがあります。
この初期脱毛を症状の悪化と勘違いし、ストレスで眠りが浅くなってしまう場合があります。
しかし、治療薬が直接的に不眠を引き起こすことはありません。
髪の毛を十分に乾かさないで寝ると薄毛になる?
髪が濡れたままの状態で寝ると頭皮や髪の毛に雑菌が繁殖し、頭皮のかゆみやふけ、炎症などの原因となります。
また枕にも雑菌が繁殖しやすくなるので、頭皮だけでなく顔や首周りの皮膚にとっても良くありません。
頭皮環境の悪化は徐々に薄毛を進行させる恐れがあるため、髪の毛は十分に乾燥させることが大切です。
ドライヤーを当てるときは髪の根元からしっかりと乾燥させましょう。
髪の毛を結んで寝るのは良くない?
女性の場合、髪をアップにしたりポニーテールにする機会はよくあることでしょう。
しかし、常に一方向に頭皮が引っ張られている状態は頭皮に大きな負担をかけるものです。
髪の毛を結んだまま寝ると頭皮の血流が悪化し、毛母細胞の分裂に必要な栄養素や酸素が毛根まで十分に運ばれなくなってしまう恐れがあります。
頭皮の血流不足は薄毛の要因になり得るものです。寝るときは頭皮に負担がかからない状態にしておきましょう。
睡眠不足を解消して薄毛(ハゲ)対策をしよう!
ここまで睡眠不足が薄毛を引き起こす理由や睡眠のメカニズム、睡眠の質を上げるためのポイントなどについて解説してきました。睡眠とは私たちの脳を休めたり疲れた体を修復したりする上で必要不可欠なもの。睡眠が不足するとさまざまな不調を来たし、頭皮の環境を乱します。
健康的な頭髪を目指すためには、睡眠のメカニズムを理解した上で質の良い睡眠をとるように心がける必要があります。また薄毛の理由がAGAなどの疾患である場合、睡眠を十分にとると同時にクリニックへの受診を検討しましょう。
天野 方一 先生
ヘアテクト 顧問医師
日本抗加齢医学会専門医
埼玉医科大学卒業後、都内の大学附属病院で研修を修了。東京慈恵会医科大学附属病院、足利赤十字病院、神奈川県立汐見台病院などに勤務、研鑽を積む。2018年9月よりハーバード大学公衆衛生大学院(Harvard T.H. Chan School of Public Health)に留学。予防医療に特化したメディカルクリニックで勤務後、2021年よりへアテクト顧問、2022年より理事長に就任。日本腎臓学会専門医・指導医、抗加齢医学会専門医、日本医師会認定産業医、公衆衛生学修士、博士(公衆衛生学)の資格を有する。
- 本記事はHAIRTECTスタッフが天野医師にインタビューを実施し、スタッフが内容をまとめたものとなります。
- 本記事の内容は公開日時点の情報となります。 情報などは更新されていることもありますので、最新情報を確かめていただくようお願いいたします。