AGA治療は植毛と薬のどちらがおすすめ?自毛・人工の違いや費用
AGA治療の一つである植毛には自毛植毛と人工植毛があります。両者は効率的に薄毛を改善できる反面、いくつかのデメリットも存在します。本記事では、植毛のメリットデメリットと、AGA治療の選択肢について紹介していきます。
「AGA治療では植毛を選ぶべき?」
「植毛より投薬治療のほうがいい?」
「植毛治療にはどんなメリットとデメリットがあるの?」
AGAによる薄毛で悩む方の中には、このような疑問を持っている方もいると思います。
AGAには複数の治療法があり費用も様々です。初めて治療を検討される方は何を選べば良いか分からなくなってしまうこともあるでしょう。
この記事では、上記のような悩みを持たれている方が自分に合った治療を選択できるよう、AGAの植毛治療の種類や費用、メリットとデメリットなどを解説します。
■ 本記事のサマリ
- 植毛には「自毛植毛」と「人工植毛」がある
- 自分の毛髪を植毛する「自毛植毛」の方が安全性が高い
- ただし、いずれの植毛方法も費用が高く、将来的に更に植毛が必要となる可能性が高い
- AGA治療を行う場合、費用対効果の観点から、まずは投薬治療を推奨
AGA治療の第一選択は「投薬治療」
植毛は複数あるAGA治療のひとつで、自毛もしくは本物の毛髪に似せた人工毛を薄毛部位に植え付ける外科的治療です。
AGA治療には、植毛以外にもさまざまな治療方法があります。
代表的なAGA治療法は以下の通りです。
AGA治療方法とその概要
これらの治療法の中で、最も一般的なものが内用薬や外用薬による投薬治療です。
これは、投薬治療が比較的安価で、かつ侵襲性の低い治療を行うことができるからです。
投薬治療は単独で進めることもあれば、他の治療法と併行して進めることもあります。
植毛と「育毛・発毛・増毛」の違い
薄毛対策では植毛の他にも育毛や発毛、増毛などの用語を目にしたことのある方が多いのではないでしょうか。
これらの用語の意味や違いは把握しづらく、薄毛の改善を目指すにあたって混同してしまいがちなものです。
そこで、以下ではそれぞれの内容を紹介します。
育毛・発毛・増毛の違い
これらの薄毛対策の中で、発毛のみが医療機関での治療や医師による処方、薬剤師による問診を必要とします。
クリニックでのAGA治療は、発毛にあたるものです。
植毛には「自毛」と「人工」の2種類がある
先にお伝えしたように、植毛には自己の毛髪を移植する「自毛植毛」と人工的な毛髪を植え付ける「人工植毛」の2種類があります。
効率的に薄毛の改善を目指せる2種類の植毛ですが、それぞれに違ったメリットとデメリットが存在します。
いずれかの植毛を検討する場合、それぞれの植毛の仕組みやメンテナンスを含めたトータルコスト、安全性などをしっかりと下調べしておきましょう。
自毛植毛は自分の髪を植毛する方法
自毛植毛では、AGAの症状が出づらい後頭部や側頭部から健康な毛髪を採取し、AGAを発症している部位に移植します。
そもそも、AGAの原因となる男性ホルモンの「DHT」は、毛乳頭内の酸化酵素や男性ホルモン受容体が引き金となり生じます。
自毛植毛では、これらのAGAの原因物質が少ない部位の自毛をAGAの患部に植毛することで、薄毛の改善を目指すのです。
採取は毛根とその周辺組織も含めたグラフト単位で行われるため、植毛部位に髪を永続的に生着させられます。移植した髪の毛は他の髪の毛と同様正常なヘアサイクルの元に育ち、抜け落ちた後も新たな髪が形成されます。
自毛植毛は安全性などがメリット
AGAを効率的に改善できる自毛植毛ですが、自毛の採取や移植は外科的な処置となるため、施術の安全性や仕上がりに不安がよぎることもあるでしょう。
ここで、自毛植毛で得られるメリットを見ていきましょう。
仕上がりが自然
施術により生着した髪の毛は元からある自毛と同質であるため、自然な仕上がりが期待できます。
植毛した髪は正常なヘアサイクルで寿命を迎え、その後も新たに髪が生まれるため、術後のメンテナンスは不要となります。
ヘアセットやカラーリング、パーマなどを自毛と同様に思いのままに楽しめます。
拒絶反応が起こりにくい
人工植毛とは違い、自毛植毛では自己の皮膚組織を移植するため、異物を排除しようとする拒絶反応が頭皮に起きにくいメリットがあります。
拒絶反応はさまざまな頭皮トラブルや感染症のリスクを高めるもので、周辺部位の髪と頭皮に大きなダメージを与えかねないものです。拒絶反応がほとんどない自毛植毛は安全性の高い施術といえるでしょう。
瘢痕性脱毛症にも対応できる
自毛植毛は毛根の周辺組織ごと採取した自毛を植え付けるので、髪の毛が全くない部位や外傷により毛根が傷ついてしまった部位にも髪を生着させられます。
火傷や怪我によって髪の毛を作り出す組織が壊れてしまった瘢痕性脱毛症も、自毛植毛によって改善できるのです。
デメリットは、1度で終わらず、高額な点など
安全性が高く術後のメンテナンスも不要な自毛植毛ですが、周辺部位に起こるAGAの進行を防げないことや施術者のレベルによって仕上がりに差異が生じることなどを踏まえると、万能な治療法とは言えないのが現状です。
そこで、以下では自毛植毛のデメリットを具体的に解説します。
植毛部以外のAGAは進行する
自毛を植毛した部位では正常なヘアサイクルが保たれますが、周辺部位ではAGAが進行し続ける可能性があります。
例えば生え際だけを植毛したとしてもつむじの薄毛や生え際の後退が進行すれば、植毛部位だけが離れ小島のように髪が残り不自然なヘアスタイルになってしまいます。
この場合、更なる植毛を検討せざるを得なくなり金銭的な負担も大きくなってしまいます。
生着しないと抜け落ちる
自毛植毛では移植した組織の細胞が正常に機能できなければ生着したことにならず、すぐに抜け落ちてしまいます。
植毛の生着率を高めるには以下に挙げる項目が重要です。
- 採取から移植までがスピーディーである
- 一定時間で多くのグラフトを採取できている
- 切り取った頭皮からグラフトを採取する「株分け」が丁寧である
これらの項目は医師や看護師のスキルに左右されやすいものです。
後述のニードル法やHair Strong法などのような難易度の高い植毛では、クリニックによって仕上がりに差異が生まれることもあるでしょう。
合併症のリスクがある
自毛植毛の施術で合併症が起こるリスクはほとんどありませんが、まれに局所麻酔による不整脈や術後の知覚過敏、痺れなどが生じる場合があります。
また、術後の傷跡が瘡蓋になり自然と剥がれ落ちるまでには痒みが生じがちです。
しかしここで思い切り頭皮を掻いてしまうと、傷口がぶり返し炎症や化膿の引き金となることもあります。
自毛植毛は自己の毛組織とはいえ、本来毛のない部位に毛根を外から植え込むものです。
施術中や施術後に一過性のトラブルに見舞われる可能性を考慮しておきましょう。
高額な費用がかかる
自毛植毛は、健康保険が適用されない上に外科手術となるため、1度の施術費用が高額になりがちです。
また、1グラフトの相場は1,000円前後となりますが、初期の生え際後退の場合でも、おおよそ400から600グラフトの植毛が必要です。
つまり、自毛植毛で薄毛を改善するには最低でも40万円から60万円程度は必要と認識しておいたほうが良いでしょう。
また自毛植毛はメンテナンスが不要ではありますが、AGAの進行に伴い植毛範囲を広げる選択に迫られる場合もあります。
薄毛の状態によっては数百万単位のコストがかかることもあるのです。
傷跡が残ってしまう可能性がある
自毛植毛では自毛を採取する際に頭皮を傷つけるため、術後に傷跡が残ってしまう可能性があります。
特に、頭皮を帯状に切り取るFUT法では広範囲に渡って傷跡が残りがちです。
傷跡は髪の毛が数cm伸びれば隠せるものですが、薄毛の進行によって周辺部位の地肌が目立つようになってしまった場合、植毛跡が露出してしまう恐れがあります。
自毛植毛の種類
自毛植毛にはさまざまな種類の施術があります。以下ではそれぞれを具体的に解説します。
FUT法(ストリップ法)
FUT法ではまず医師がメスで頭皮を帯状に切り取り、採取します。
その後医師が傷口を縫い合わせ、看護師が採取した頭皮をグラフトごとに株分けします。
こうして得られた自毛は、メスで切り込みが入れられた頭皮にピンセットで植え付けられていきます。
FUT法はその他の施術よりも比較的安価ではありますが、頭皮を剥ぎ取る過程があるためダウンタイムを要する傾向にあります。
FUE法
FUE法とは頭皮ごと切り取るFUT法とは異なり、特殊なパンチを使いグラフト単位で自毛をくり抜き採取する方法です。
自毛をピンポイントでくり抜くFUE法には頭皮を縫い合わせる過程がなく、傷跡が目立ちにくいのが特徴です。
ロボット植毛
ロボット植毛はFUE法に含まれる施術法です。
パンチを使い採取した自毛を移植する点では一般的なFUE法と同じですが、ロボット植毛では採取や移植の作業をロボットが行います。
ロボット植毛は医師による手作業の施術と比べると丁寧さに欠けるデメリットがありますが、最新の機器では髪の毛の向きや密度、角度などを正確に解析し、スピーディーかつ均一な植え付けを行えるようになりました。
Hair Strong植毛
Hair Strong植毛もまたFUE法に含まれる施術ですが、極細のパンチを用いることでグラフトの切断率を低くし、頭皮への負担を軽くしたり生着率を高めたりできるのが特徴です。
ハンドメイド植毛とも呼ばれるHair Strong植毛では頭の形や髪の毛の流れ、癖毛などを考慮した上で施術が進められるため、仕上がりの美しさに定評があります。
ニードル法
ニードル法はサイズが異なる針(ニードル)に採取したグラフトを入れ、頭皮への穴あけとグラフトの埋め込みを同時に行う方法です。
グラフトを頭皮に注射するように移植するニードル法では精度の高い仕上がりが期待できる反面、採取から移植までの過程に時間を要する傾向にあります。
先にお伝えしたように採取した毛組織の生着率を高めるには素早く移植を行う必要があるため、ニードル法には熟練したスキルをもつ医師や看護師が必要となります。
自毛植毛は100万円以上することも
先にお伝えしたように、自毛植毛は1度の施術費用が高額になりがちです。ここで、自毛植毛の相場を見ていきましょう。
自毛植毛にかかる総費用は次の計算で求められます。
総費用=基本治療費+グラフト単位の費用×グラフト数
診察代や処方薬にかかる費用を指す基本治療費の相場は、おおよそ20万円から30万円程度。
またグラフト単価は施術法によって異なりますが、1,000円前後から1,600円程度が相場となります。
なお、必要なグラフト数は薄毛の状態や部位によって異なり、下記に挙げる数が目安となります。
脱毛部位とグラフト数
自毛植毛の中でもグラフト単価が高い傾向にあるのが、医師による繊細な手作業が必要となるニードル法やHair Strong植毛、一方、グラフト単価が比較的低めなのがロボット植毛やFUT法です。
仮に脱毛初期の生え際に必要な500グラフトを植毛する場合、以下の総費用がかかると考えて良いでしょう。
植毛の種類と費用相場
自毛植毛の種類によっては額の生え際補正だけで100万円以上の費用がかかることがあります。
どの施術か決められない場合は、クリニックの無料相談を利用してみることも選択肢の一つとしておすすめです。
人工植毛は人工毛を植毛する方法
人工植毛とは、人体に比較的馴染みやすいとされるナイロンやポリエステルなどで作られた毛髪を頭皮に植え込む施術です。
人工植毛では脱落を防ぐためにあらかじめ先端に結び目を作った状態で植え込むので、自毛を引き抜く程度の力がかかっても簡単に外れることはありません。
このため、アップスタイルや激しい運動も安心して楽しめます。
また、人工毛には自毛に似せた色合いや質感が施され、本物の毛髪と同様のキューティクルまで存在します。
本物とそっくりな人工毛は、施術後も違和感のない増毛を可能とします。
人工植毛は移植本数に制限なく
すぐに薄毛が改善される点がメリット
人工植毛は移植本数に限りがなく、毛髪の長さや色合い、本数を自分の好みに応じて決められます。
また、施術当日から理想の長さの髪が得られるので、自毛植毛のように髪が育つまで待つ必要がなく、好きなヘアスタイルを楽しめます。
即効性のある効果が欲しい方や自分好みのヘアスタイルが定着している方は、人工植毛のメリットを強く感じるでしょう。
デメリットは拒絶反応の起きやすさや価格
施術当日から理想の増毛が可能となる人工植毛ですが、デメリットも存在します。
まず、人工植毛は自毛植毛よりも頭皮の拒絶反応が起きやすくなります。
なぜなら、安全性の高い素材で作られているとはいえ、人工毛は頭皮にとって異物でしかないためです。
施術部位の免疫細胞は頭皮に植え付けられた異物を排除しようと炎症やアレルギー、化膿などの反応を引き起こします。
また、頭皮トラブルによりバリア機能が低下すると、感染症のリスクも高まり、自毛に悪影響を与えてしまうのです。
なお、人工植毛の施術にかかる費用は自毛植毛の半額程度ですが、人工植毛には半年から1年に1度のメンテナンスが必要となります。
したがって、トータルコストが自毛植毛よりも高額になる可能性があります。
人工植毛は安全性の観点で推奨されていない
人工植毛は頭皮トラブルのリスクが高いことから、クリニックによっては「推奨しない」と提言しているところもあります。
実際、日本皮膚科学会によるガイドラインでは人工植毛の推奨度を最も低い「D」ランクと評価しています。
また、アメリカやヨーロッパでは人工毛が有害であるとし、州や国によっては人工植毛の施術を法律で禁止しているところもあります。
こうした経緯から国内でも多くのクリニックでは自毛植毛のみを取り扱う傾向にあり、人工植毛を受けられるクリニックは限られているのが現状です。
AGA治療はまず投薬治療から!
結論から申し上げますと、まずは投薬治療から始めることをおすすめします。
AGAは一度発症すると生涯進行し続ける疾患です。
自毛植毛で施術部位の薄毛を改善できたとしても、AGAの進行が周辺部位に及んだ場合、理想の髪をキープできなくなるリスクが高いです。
一方で、内服薬は飲み続けることでAGAの進行を抑制したり発毛を促したりできます。
脱毛初期の状態であったりAGAの進行が遅かったりする場合、投薬治療だけで薄毛を改善できる場合もあるのです。
この結果、トータルコスト面でも、植毛よりも低く抑えられる可能性があります。
したがって、長い目で見てAGAの症状と向き合うのであればまずは投薬治療を第一優先とし、状況に応じて自毛植毛を併行することをお勧めします。
AGA治療は植毛よりも薬の服用からはじめよう
AGA治療の一つである植毛には自毛植毛と人工植毛の2種類がありますが、いずれもAGAの進行を食い止めるものではありません。特に人工植毛は頭皮トラブルのリスクが高く、正常な髪の毛への悪影響も懸念されます。
AGA治療を始めるのであれば、まずは投薬治療によりAGAの原因となる男性ホルモンを抑えたり発毛を促したりすることから始めましょう。自毛植毛をする場合、投薬治療と併せて行うことをおすすめします。
天野 方一 先生
ヘアテクト 顧問医師
日本抗加齢医学会専門医
埼玉医科大学卒業後、都内の大学附属病院で研修を修了。東京慈恵会医科大学附属病院、足利赤十字病院、神奈川県立汐見台病院などに勤務、研鑽を積む。2018年9月よりハーバード大学公衆衛生大学院(Harvard T.H. Chan School of Public Health)に留学。予防医療に特化したメディカルクリニックで勤務後、2021年よりへアテクト顧問、2022年より理事長に就任。日本腎臓学会専門医・指導医、抗加齢医学会専門医、日本医師会認定産業医、公衆衛生学修士、博士(公衆衛生学)の資格を有する。
- 本記事はHAIRTECTスタッフが天野医師にインタビューを実施し、スタッフが内容をまとめたものとなります。
- 本記事の内容は公開日時点の情報となります。 情報などは更新されていることもありますので、最新情報を確かめていただくようお願いいたします。